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ランゼッティ チェロ・ソナタ集CD発売記念連載 第2回

ランゼッティ チェロ・ソナタ集CD発売記念連載 第2回 ランゼッティ チェロ・ソナタ作品1の聴きどころ(1)

CDジャーナル ニュース
http://www.cdjournal.com/main/news/kaketa-takashi/46889

Yahoo ニュース
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120903-00000019-cdj-musi


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もうすでにお手元にCDが届いている方もいらっしゃるかと思います。お買い上げありがとうございます。まだ聴いていらっしゃらない方にネタばらししてしまうのもどうかと思いますが、できるだけ多くの方に楽しんでいただけるよう少々コメントを加えていこうと思います。

まずCDの曲順ですが、番号順ではありません。5番に始まり、2番、4番、1番、3番、6番の順ですね。5,2,4,1,3,6。5,4,3と、2,1,6の数列を交互に組み合わせた深い意味は、、、というのは冗談で、当然調性と全体の流れを考えて、できるだけ単調にならないように、と考えたものです。特に5番以外全て長調ということで、実はとても並べにくく、苦心しました。(とは言っても組み合わせは限られているのですが)

まず、この作品1の12曲全体を眺めてみましょう。調性は順に G - A - D - C - a - B - G - e - a - fis - F - D (大文字は長調、小文字は短調)となっています。今回の録音には含まれていない後半6曲には短調が3曲もあり、前半とは対照的ですね。しかもラの開放弦を使えるとは言っても、9番の嬰ヘ短調は非常に珍しい。とは言っても同じくナポリの作曲家レオナルド・レオのチェロ・コンチェルトヘ短調(ランゼッティ作品1の出版とほぼ同時期に作曲)があって、それよりはまだこちらのほうが弾きやすい。

12曲を通すと、後半に行くに従って難易度が高くなるよう並べられているのが分かります。4番までは開放弦の1オクターブ上a'までの音域で収まっていますが、5番1楽章からその3度上のcまで拡大し、2楽章では作品1のほぼ最高音a"まで到達します。(作品1の最高音は9番の2楽章のh")詳細に吟味したわけではありませんが、a"までのパッセージは当時としては異例であり、まるでパガニーニを初めて聴いた時のように、人々は目を丸くして驚いていたのではないか。しかも12番では左手親指を使った(と思われる)a'より高い音域でのパッセージが連続しているので、そのブリリアントな響きはかなり衝撃的だったのではないかと想像します。作品1より後のランゼッティによる他作品を見ても、音域についてはそれ以上高くなることはありませんし、フィンガリングも含めて、ハイポジションのテクニックという意味では、既に完成していたのではないでしょうか。あまり専門的なことばかり言うのもなんですが、特に親指ポジション、そしてそのポジションでの左手小指の多用(パッセージから見て、そうとしか私には思えない)は、後世代を先取りしているものです。こうしたハイポジションでのテクニックは、ランゼッティが学んだ可能性もあるシプリアーニの作品や前世代には見られないものです。

では、収録曲順に、簡単にそれぞれの曲にコメントしてみましょう。

5番は6曲中で唯一の短調ということもありますが、非常に強いキャラクターを持っていて、ランゼッティのヴィルトゥオーゾとしての面目躍如的な曲でもあるかと思います。これは個人的な意見ですが、作品1の12曲はテクニック的な面や音楽の成熟度から考えて、1~4番、5~9番、10~12番という3つのカテゴリに分けることができるのではないかと思います。5番は、一つ成熟の階段を登った最初のソナタということです。1楽章はAdagio cantabile、途中繰り返される器楽的なパッセージのパターンは、ナポリの作曲家フィオレンツァの独奏チェロ(と2つのヴァイオリン、通奏低音)のためのシンフォニア(1728)でもよく似たものが見られます。果たして定形的なイディオムなのだろうか?

fiorenzaの該当部分
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1~4番までは限定的だったダブルストップ(重音)ですが、5,6,7度の連続などが増えてきます(弾き易くはない)。2楽章は4拍子のAllegro、速いパッセージの中で2オクターブ近い跳躍があったり、非常に名手的なアピールに富む楽章。時折出てくる歌謡的な部分でほっとします。後半ではついに最高音a"が登場。ここでもダブルストップが頻繁に活用されており、重音がもはや特別なテクニックではなくなっている感があります。3楽章は3/8のandanteメヌエットですが、中間部で3/4、長調に変わり、軽さの中にダブルストップやハイポジションなどが盛り込まれています。

続く2番はイ長調、Andante cantabile - Allegro - Menuet Cantabile。イ長調らしい柔和なカンタービレの中でシンコペーションが印象に残る1楽章、そしてカノン風に始まる2楽章は決断に迷う主人公が悩める心境をこまごまと歌うアリアのよう。3楽章は、イ短調~ハ長調と長めの中間部をもつメヌエット・カンタービレ。1楽章はよいとしても元来ダンスであるメヌエットにカンタービレとついているのは興味深いですね。このソナタは、オペラの器楽版超短縮ダイジェストのようなものかもしれません。

4番はハ長調、Adagio cantabile(やはりcantabile)- Allegro - Allegro、堂々たる長い前奏(楽譜を見るとチェロによる通奏低音を想定しているのでしょう)を持つ1楽章、オペラの主役カストラートがメッサ・ディ・ヴォーチェで登場する場面のようです。2拍子の快活な2楽章(結構好き)、3/4拍子の3楽章は途中ダブルストップで二声になる部分が愛らしい。このソナタは、作品1の中でももっともコンパクトにまとまったもので、楽章のキャラクターが非常に明快で、コンサートでも取り上げたい曲の1つです。

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と、これで収録したソナタの前半3曲なのですが、9つの楽章中4つにcantabileがついているという、、、。
どれだけcantabileしたいんだという、ナポリ人の業のようなものを強く感じます。
夜も更けてきたので、あとは次回、残す3曲について書こうと思います。
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by takashikaketa | 2012-09-08 02:35 | Musica 音楽 | Comments(0)

チェリスト 懸田貴嗣の備忘録


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